コラム

里のおはなし

古代から歴史に刻まれる奥出雲の「たたら」

独自発展を遂げた日本の「たたら製鉄」

こんにちは!たたライターです!

このたび、島根県雲南市吉田町のたたらの里を訪問し、たたらの歴史や町を取材させていただきました。

 

みなさんは「たたら」と聞くと、ジブリ映画の「もののけ姫」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
「たたら」とは鉄の原料である砂鉄を燃焼させて鉄を取り出す製鉄法のこと。日本では弥生時代もしくは古墳時代に伝来し、鉄鉱石が主流だった海外とは異なり、砂鉄を使う独自の方法へと変化したそうです。

それにしても、「たたら」という言葉は不思議な響きがしますよね。
一説では中央アジアのタタール人が鉄づくりをしており、それが伝わる過程で「タタル」から「たたら」になったとも言われています。


たたら操業で使われる砂鉄

 

奥出雲はたたら製鉄の一大産地

たたら製鉄の原料で必要なのは、砂鉄、木炭、土の3つ。中国山地では良質な砂鉄と豊富な森林資源があったため、各地にたたらが作られて発展していきました。
吉田町がある奥出雲エリアは特にたたら製鉄が盛んで、最盛期には全国の鉄の8割が生成されており、今では人口1,500人程度の吉田町にも当時は1万~1万5千人が暮らしていたそうです。

現在の吉田町の町並み

 

神話の世界ともリンクするたたら

有名な出雲神話の「ヤマタノオロチ」。実は、古代からこの地でたたらが盛んだったことを示しているのではないかという説があります。
「ヤマタノオロチ」の神話とは、頭が八つ、尾が八つある怪物をスサノオノミコトが退治するという物語です。


斐伊川系の吉田川

 

奥出雲には斐伊川という川の源流があり、氾濫を繰り返す暴れ川として恐れられていました。
一説ではヤマタノオロチは斐伊川を、退治とは治水事業を指しているとのこと。
神話だと退治したオロチのしっぽから刀が出てくるのですが、斐伊川の上流は奥出雲地方のため、この地のたたら製鉄を示しているとも考えられています。
このようにたたらが神話の世界とも繋がっていると思うと面白いですよね。

 

風を送る方法も時代で進化

たたら製鉄では山から採取した砂鉄を高温で熱して不純物を取り除くのですが、炉を高温に保つためには送風がカギと言われています。
かつてのたたら場は自然の風を利用するために山の斜面に作られていました。
江戸時代には天秤になっている大きな板を踏んで風を炉に送る足踏み鞴(ふいご)が登場し、作業効率が飛躍的に上がります。
もののけ姫に出てくる「たたら」はこの足踏み式。
「たたらを踏む」という言葉もこの様子から生まれた言葉だそうです。


今も見学できる重要有形民俗文化財「菅谷たたら山内」

 

その後、水車で風を送る仕組みができるのですが、明治時代の開国により近代製鉄の技術が入り、大正末期には「たたら」の火は消えてしまいます。

 

たたら操業を未来につなげる

一度は途絶えた「たたら製鉄」ですが、「たなべたたらの里」では2018年にたたら操業が行われ、100年ぶりに田部家のたたらの火が現代に蘇りました。


2022年6月実施のたたら操業

 

現在は年に2回、春と秋にたたら操業が実施されています。
炉に砂鉄と木炭を交互に入れる「たたら吹き」を夜通しで行い、鉧(けら)という鉄の塊を取り出します。

木炭を投入する様子

 

500年以上の歴史を持ち、町の象徴だった「たたら」の操業再開は、たたらの里の皆さんにとっても特別なプロジェクトのようです。

取り出された鉧(けら)

 

古代から近代まで脈々と続いた「たたら」には、歴史はもちろん、地域の文化や人々の想いも詰まっていると感じます。
たたらがこの地域で始まったのは約1400年前のこと。このたたら操業もいつか歴史の1ページになる日が来るかもしれません。

 


【たなべたたらの里】
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